ねるねる煉獄

自慰文らしく生きようね

毎日君のこと殺す

夢を見たと彼は言った。世界は無関心に橙を見せた。窓際の机に腰かけた私が全てで、隣の彼がそれ以外だった。放課後の教室は静謐の満ちた箱で、私だけの幸せがある。パンドラ、なんて気取った私は口にして、私は彼を口にした。
「夢なんて、そんなの、ゆめよ。」
この愛おしさが箱から溢れないように、静謐をかき混ぜる。物音。私は彼に接吻をする。背徳に興奮して、さらに貪った。カーテンを掠めた私の両手は、彼の側頭部にあてがわれる。彼は身をよじる。私は首に右腕を回して、脚に脚を重ねて、絡みつく。何かに追い立てられる青春に嫌気がさしていた。彼を食べている瞬間、そのひとときだけは、私が追いかけている。いま、きっと誰よりも強い私は、誰よりも強く寄り添いたかった。
「それがうるさいんだ。」
蕩けた彼は目だけに色を灯す。口を歪める。焦点を私に合わせる。
「僕を見てくれよ」
「見ているわ、目の前にいる、あなたを、私は見ている」
「ああ、それだよ、それがいけない。目の前に僕はいるかい。世界における僕は君の目の前にいるかい。君にとって僕はどういう意味を持って」
抑揚のない彼の言葉はいよいよ夢をみているようで、私は彼を追いかけなきゃいけない。
「世界は私で、それ以外はあなたよ。私が目を瞑ると、その時私は世界を見ている。目を開けた時、私はあなただけを見ている。それが愛でしょう」
「じゃあ君はどういう夢を見る?」
彼は未だ夢を見ているようだ。白昼夢は私を貫いて夜に移行して、ただの夢になって、街に溶ける。
「君が目を瞑ったときそこは君の世界だ。君の世界、そこで見る夢は君以外の誰に知られることもない。自由がそこにのみ在って、そう、そこで見た君を僕は殺したんだ。誰にも知られない犯罪、でも君は死んだよ、あっけなく死んだよ。
君は、世界以外さ、呆れるほどに。」
これ以上きいたらいけないと思った私は、彼を殺して、夢から覚めて、もう一度彼の夢を見た。
見事に目が覚めた。